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しがないリーマンの徒然HobbyLife!

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「黎明の空へ」後編

ムラサメ戦記 外伝「黎明の空へ」後編

× × × × × × × × × × × × × × × × × × 

ムラサメの格納庫に戻ると、エリカさん達が駆けつけていた。
彼女たちの到着が遅れた理由も同時に判明した。
サワダは、予め各部屋にロックを掛けていたのだ。その解除に手間取り、足止めを喰らったらしい。
一方、既にムラサメはチェック済みで、異常はないそうだ。
俺は、何より気がかりだったことが判明し、少し安堵した。
そして、俺は今思いついたことを率直に伝えた。
彼女は、一瞬難しい表情をしたが了承してくれた。

つまりは、変形テストを今行うということだ。無論、戦闘機形態のまま事が済むならそれに越したことはない。だが、相手を捕縛するにはMS形態が適任だ。
ぶっつけ本番だが、トランスシステムについては頭に叩き込んである。その上シュミレーターでも体験済みだ。なんとかならなくもない。
(今まですべて一発成功してきたんだ。恐れることはない。)
俺は強く念じた。
急ぎコクピットに入り、肩口からベルトを伸ばし、ちょうどV字になるように締めた。
パイロットスーツなど着ている暇は無かったので、メットのみを着用している。
OSを起動すると、真っ暗だったコクピットに光が溢れた。
(よし行けるぞ!)
オーブのエンブレムがモニター上で回転し、起動プログラムが描き出される。
 俺は、素早く機体各部のチェックを行う。
「エネルギーリンク正常。油圧系統正常。」
これから数時間後にはテストが予定されていたため、変形モジュールの設定は既に行われていたのがせめてもの救いであった。
「これなら行けます。発進許可を!」
俺は、オールグリーンと表示されるや否や指示を仰いだ。
「二尉、くれぐれも無理はしないように。健闘を祈っています。」
エリカさんからの通信だった。
「了解しました。」
俺はそう応えると、操縦桿を握った。

「ショウ・マツカゼ、ムラサメ出ます。」
滑走路に入ったムラサメは、闇夜を切り裂いて発進した。
離陸時の急激なGを越え、空へと駆け上がる。霞がかった月が機体を照らし出していた。

× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × 

ムラサメは、航法灯を点滅させて飛び立つと安定飛行に入った。
この辺りは空気がいいのか、夜空に多くの星が瞬いている。
その上、夜の空は地上より静けさに満ちている。
「ほう、結構広いんだな。」
眼下には、広大な森が広がっている。隠れるには絶好のポイントだ。
しかも、今は朝霧が立ち込めている。視界が利かない以上、注意するに越したことはない。
遠目からはそれほど大きくはない島だが、全景を見渡すとかなりの大きさだ。
俺は、レーダーに目を配りながら、島に変化がある場所はないか目を凝らした。
「ん、今のは?」
俺は、ともすれば見落としかねない光に気が付いた。
(今、赤い光が見えたような気がしたが・・・・)
旋回して再度確かめる。
いや見間違いではない。あれはMSのモノアイだ。
日中ではあまり気にならないかもしれない。
 だが、あの光は微妙に左右に振っていた。

次の瞬間だった―――――
レーダーがこちらに向かって接近する熱源を捉えたのだ。
それと同時に警告音がコクピット内に木霊する。
どうやら対空ミサイルらしい。白い靄を突き破って次々と上昇してくる。
 俺は、機体を引き上げ回避を図る。実際、夜間飛行では距離感が取りづらい。加えて相手が何者か確認する方が先決である。
俺は、次の1手を待った。

姿を見せたのは飛行型の機体だった。どこと無く烏を髣髴とさせる。6枚の翼を展開して一気に空へと駆け上がってくる。
(ディンか?偵察型らしいな。)
青に近いグレーを主体としたカラーリングは、闇夜には持って来いの迷彩色だ。もっとも、こんな暗闇では色彩まで確認はできないが。また、円盤型のレーダーを背部に背負っている。
今の攻撃は6連装多目的ミサイルランチャーだったらしい。
(アイツが乗っているのか?)
俺は気になった。
加えて、コイツの破壊を最優先事項にするかにも影響する。

「そちらのMSに通達する。ここはオーブ軍の管轄エリアだ。武器を捨てて投稿しろ。」
攻撃を受けているので確かめる必要はないのだが、一応尋ねてみる。
返答は無かった。
(まあ、当たり前の反応だが。)
俺は踵を返すと機首を相手に向けた。
 敵は、右手に構えた重突撃機銃をこちらに向け、連射した。チェ-ンのような銃弾の連なりがムラサメを襲う。
俺は、ギリギリのところでかわし、翼の基部に備え付けられた機関砲で応戦した。
この兵装はイーゲルシュテルンより6分の一ほどに小口径化されているのだが、威力は十分だ。
ディンは、機体の重心をやや左に傾け、横にスライドするようにしてかわした。
ディンは大気圏下での飛行に特化しているため、重量は他のどのMSよりも軽く造られている。
このムラサメよりも、だ。
しかし、弱点もある。装甲の薄さだ。バルカン程度でも有効な攻撃手段となる。
武装に乏しい今のムラサメにとっては有難くも有る相手だ。
ただ、空戦機能、殊に滞空安定性は並ではない。
ディンは、6枚の翼を夜空に煌かせ、夜空を自由に駆けた。
そして長細い頭部カバーを閉じ、高速飛行形態に移行した。レーダーを背負っているにしてもかなり素早い。
また、その意匠は若干、フリーダムやジャスティスに似ている面もある。両者は、共に飛行型である上にディンの建造後にロールアウトした機体だ。ディンのデータが参考にされていてもなんら不思議はない。


俺は変形を試みた。
機体をほぼ垂直まで上昇させる。
そして、肘掛上の基盤にある“TransformMS/MA”と表示のある部分をクリックした。
想定では、このまま変形が完了するものと思われた――――

しかし、脚部は展開されたものの腹部に収納された椀部が展開されない。
(どうなっている?)
俺の中に動揺が走った。敵もこのままほかっては置かないだろう。
(ここはマニュアルでやるしかないのか?)
万が一に備え、学習しておいた方法に取り掛かった。
もちろんこの間も敵の攻撃に耐えながらだ。
今度は左腕に構えた滞空散弾銃を掃射してきた。散弾は射程範囲が広い。厄介だ。
俺は、翼をやられない様注意しながら機体を右へ左へと誘導した。
この危険な状態においては、マニュアル変形は無謀な行いだが、理論上は可能である。
一端、飛行形態に戻し、再度変形を試みた。

先ほどと同じく機体を急上昇させる。
そして、折りたたまれた脚部を展開する。ガクン、という軽い衝撃とともに楕円形の脚部が伸張した。
次は、問題の椀部及び腹部だ。
コンソール上のアイコンに従い、シールドマウントを左腕に移行させる。戦闘機形態時には、シールドは機首となり、中央部に位置しているのだ。
すると、コクピットブロックに接触していた機首の部分が分かれた。
(頼む!!成功してくれ!!)
俺はそう願い、コクピット内壁の両脇から左右に出ているレバーを手前に引き寄せた。

そして―――――
機体の芯となる部分に収納された両腕が左右に投げ出される。
さらに、シート部分が90度回転し、全天周モニターへと移行する。
(いけっ!)
飛行しながらの変形は、無重力空間を思わせる妙な感覚である。
外部から見ると、ちょうど胸部アーマーが回転して腹部に折りたたまれた状態だ。
収納してあった頭部が現れ、黄色いツインアイが点灯した。
そして、滞空状態で即座に各部のチェックを行う。 
マニュピレーターも正常に可動する。飛行性能にも異常は見られなかった。
「さて、どうするかな。」
対峙した2対のMSの視線が交錯した。
しかし、相手はこちらの変形にも躊躇することなく攻撃を仕掛けてくる。
実際、こう実弾をばら撒かれると避けるのが精一杯という感はある。その上、こちらにはライフルが実装されていない。
だが、相手の弾切れを待つまでの猶予はない。
俺は、隙を見て接近し、頭部機関砲を連射する。
下降スピードに乗ってのすれ違い様の攻撃だ。
しかし、如何せんバルカンでは射程が短い。
寸での所でかわされてしまった。

この現状を打開すべく、俺はシールドを楯に特攻を仕掛けた。
そんなムラサメ目掛けて、相手も容赦なく撃ち続けてくる。
絶え間ない攻撃を縫い、俺はほぼゼロ距離まで接近することに成功した。
「くらえっ!!」
不意打ち的に、シールドで隠された部分から右拳を振り出す。
ヒットするのは間違いないと思われた。
しかし―――――
「何!?」
頭部目掛けて繰り出したはずの拳が、右手に構えた重突撃機銃によって防がれたのだ。
しかし、こちらの勢いまでは防ぎきれなかったらしく、銃身半ばから拉(ひしゃ)げた銃が回転しながら吹き飛んでいった。
一方、こちらもその衝撃でマニュピレーターに異常を来たした。
ただ、手持ちの武装が無いため、あまり問題ではないのが幸いだ。
「ちっ。」
俺はバルカンで牽制しつつ、一端距離を離した。

そうこうしている内に、もう早朝と呼んでも良い時刻になりつつあった。
このままでは埒が明かない。
俺は、再度戦闘機形態に戻した。一端覚えればそれほど難しいコトでもない。MSにも学習能力はある。それに、先ほどの変形手順を逆に行えば良いのだ。
俺は、相手との距離を保ったまま、フロントアーマーに装備された滞空ミサイルを全弾発射した。
発射後、一度はムラサメに追い越されそうになるが、その後一気にスピードを上げる。
ミサイルは黒い空に白い軌跡を描きディンに迫った。

しかし、滞空散弾銃を一斉掃射し、ミサイルは尽く打ち落とされた。
俺は、この時を待っていた。
危険だが、来ないチャンスを待つよりは自分で相手の隙を作る方がマシだ。
「悪いが、ここでやられるわけにはいかないんでなっ!」
ムラサメは、破壊されたミサイルの白い噴煙を縫って急速に接近していく。
俺は、飛行スピードそのままに右翼で一気に切り裂いた。
「キィィイッ」
スケイルモーターと翼が擦れ合う鋭い音が辺りに響くが、それも一瞬の出来事。
胸部から腹部にかけて袈裟切りされたディンは、火花を散らし自由落下を始める。
落下の一途を辿っていたディンは、機体半ばからの爆発によって粉々になった。

その噴煙を掻き分けて破片が四方に散る。
「・・・・・・」
こういう光景を目にすると重力とは恐ろしいものだとつくづく感じる。
 基本性能が勝るとはいえ、こちらは急ごしらえであった。
場合によっては、と思うとゾッとする。
(少々、無謀な事をしたな。)
今の攻撃が決定打になったことは明らかである。
ただ、機体強度が予想通りで助かった。
戦術と呼べるかは分からないが、地球連合のエースパイロットであったエドワード・ハレルソンがやったこととよく似ている。彼は、“スピア・ヘッド”という連合制式戦闘機の翼でMSを両断したことで有名になったのだ。
(やれやれ・・・・俺も「切り裂きエド」の仲間入りだ。)
俺はそんなことを独りごちた。
しかし、あまりにうまくいったので幾分疑問が残ったことも事実だ。
その性能に翻弄されたにせよ、あの男が仕組んだことである。もう少し難航する任務と思われたからだ。
 俺はその後も探索を続けた。

× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×

しばらく飛行を続けていたが、東の地平線の先から眩いばかりの光が溢れたきた。幾筋もの光が視界に差し込んでくる。
(日の出・・・・か・・・・・・)
暗色がかった海が次第にその色を取り戻していく。
刻々と表情を変えていく海には、オレンジ色の太陽の縁が覗いている。
その頃にはもう、鬱陶しい位に感じた霧もすっかり晴れていた。
俺はその光景にしばし釘付けになった。
任務の忙しさもあってか、暫くは自然に目を向けることなどなかったからだ。
(これはいい。ムラサメにとって幸先いいスタートになるだろう。)

× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×

しかし―――――
俺の僅かな危惧は現実のものとなってしまった。
サワダが乗り捨てた装甲車が見つかったのだ。
それも俺が最初にディンを発見した場所とはまるで逆方向の場所で、だ。
痕跡もほとんど残されていなかった。
いかにもあの男らしい。
(海上移動か?あるいは1人乗りの飛行装置を使ったのか?)
しかし、戦闘の渦中にいた俺には知る由も無かった。
加えて、偽名と思われた名であったが、実際に存在するらしい。
フルネームは、「キョウジ・サワダ」
しかも、彼はオーブ古参の研究者であるというのだ。俺の疑問は益々深まった。
(だとすれば、俺の戦った相手は誰だったんだ・・・・・)
彼があの機体に搭乗していなかったとすれば、他に協力者がいたのかも知れない。
それがザフトなのかは今断ずることはできない。
なぜなら、傭兵の中には様々なMSを使用する輩がいるからだ。
 
戦闘後に飛び散った破片を回収してはみたが、損壊が激しくパイロットなど知る術も無い。
結局、調査を尽くしてもサワダの足取りを掴むことはできなかった。
まるで狐に抓まれたかのような感覚。
失望感より、好奇心が掻き立てられる不思議な感覚であった。

× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×

「それにしても、思い切ったことをやりましたね、二尉。」
研究員の1人が俺に話しかけてきた。
「何がですか?」
おおよそ予想はできるが、しらを切ってみる。
「翼で敵MSを両断したことですよ。しかし、試作機が損壊していたら、と思うと肝を冷やしますよ。」
(俺の命は心配してくれないのか?)
と、率直に突っ込みを入れたかった。
この事件以来、俺は“蒼天のカゼ”の異名を頂戴することと相成った。俺の戦闘スタイルに起因してのニックネームだ。言うまでも無いが、“カゼ”の部分は俺の名を捩(もじ)ったものらしい。

× × × × × × × × × × × × × × × × × × × × × ×

「それじゃあ、結局我々の負けですか?」
調査結果を聞いた俺は思わず詰め寄った。
「いえ、そんなことはないわ。」
エリカさんがこちらを向いた。 
「少しばかり細工がしてあって、ね。」
厳しい表情から一転し、その顔に笑みを湛えた。
しかし、そう言われても俺にはさっぱりだった。
「じゃあ説明するわね・・・・・」
詳しい説明を受けてやっと意味が分かった。
なんでも指定人物以外の者がデータを持ち出そうとすると、自己消去プログラムが発動する仕組みらしい。
ちなみに、その指定人というのはエリカさんのことだが。
「でも残念ね・・・・こんなコトが起こるなんて・・・・・」
「いえ、そうでもないですよ。」
俺の言葉に、一瞬周りの者達が驚いたようにこちらに視線を向けた。

「今回の事件について・・・・・・・確実に言えることがあります。一つは、ムラサメの量産化は間違いないということ。」
「もう一つは―――――」
「もう一つ?・・・・・」
エリカさんが訝しげな視線を寄せた。
俺は、やや表情筋を緩めて言い放った。
「――――明日はぐっすり寝られるということです。」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

「!?」
反射的に膝小僧で机を突き上げてしまった。
顔を上げると、机上に置かれたノート型PCが僅かに斜めになっていた。いや、デスク自体も大分前に傾ている。
(いつの間に・・・・ついつい寝入ってしまったか・・・懐かしい夢を見ていた気がするな。)
首を左右に振って状況を確認する。
ここは自室ではない。
そういえば気分転換にミーティングルームに仕事を持ち込んだことを思い出した。
我ながら失態を晒してしまったようだ。
辺りを見渡すが誰にも見つからなかったようだ。
(ふう~)
「何やってるんです?隊長。」
発見者第一号。リョウスケである。
「いや・・・・・まあ、何だ。」
気を許した瞬間だったので、思わずうろたえてしまった。
「もしかして寝てました?」
図星だった。
俺は目ぼけ眼で頷いた。
「お疲れなんじゃないですか?ほら最近総合演習がありましたし。」
いやはや、取り繕ってくれる気持ちは有難い。
「いや、フォローはいい。何か用事か?」
「ええ、コーヒー入れたんですけど、隊長いかかですか?」
「ああ、もらうよ。」
俺は、椅子を引き下げるとリョウスケに続いて部屋を出た。

~Fin.






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